時間外労働時間の上限規制の導入によって医師が研究や教育にかける時間の減少が懸念され、研究と教育の質の担保が喫緊の課題となっています。本事業ではAIの活用と屋根瓦式の効率的な教育体制を構築することで個々人のスキルアップと業務の分散・効率化を同時に達成します。ティーチングアシスタントや教育支援者による多職種ネットワークによる学生の臨床・研究能力の向上とAIを用いたシステマティックな臨床研究支援システムと臨床研究をリードできる人材育成の両輪で人材養成についての拠点としても卓越した体制を整えることで、本邦全体にとっての効率的な人材育成・活用を横展開することが期待できると考えています。
このページでは、本事業におけるいくつかの代表的な取り組みを御紹介させて頂きます。
AI駆動式臨床研究事務局
臨床研究の中でも、多施設共同で行う、規模の大きな研究の場合、研究の代表をつとめる医師には、とりまとめや調整を行う研究事務局としての大きな負担がかかります。京都大学医学部附属病院では、この多施設共同研究の主たる施設としての実績を多く有しておりますが、さらにより多くの医師が研究代表をつとめられるよう、AIを活用して研究事務局作業を効率化することを目指しています。Kyoto-NEXT事業では、研究者自身が活用できるツールの開発や、ノウハウを伝える支援の仕組みなど、多面的なアプローチにより様々な研究を後押しする体制を強化します。
臨床研究者養成コース(MCR)の支援と推進
MCRは2005年からスタートした京都大学医学研究科社会健康医学系専攻の特別プログラムで、臨床医を対象とした1年制のコースです。MCRは臨床研究領域で活躍する研究者を育成するための本邦で初めての本格的な教育課程で、臨床研究の基本を体系的に学習できるよう全体のカリキュラムがデザインされています。MCRコースの学生には個人指導担当教員がつき、個別指導(メンタリング)として研究プロトコルの作成、研究実施上の指導およびデータ解析の指導を行います。2005年の開講以来約350名が修了し、3000以上の英語原著論文、500以上の国際学会発表と162回の優秀賞の実績があります。(MCR webサイト:https://mcr.med.kyoto-u.ac.jp/)
Kyoto-NEXT事業では、MCR開設20周年に合わせ、さらなる飛躍と応用を支援します。
臨床実習指導ティーチングアシスタント制度
大学病院の臨床研究室に所属する博士課程大学院生の多くは、医学部を卒業した後に5年前後臨床医として働いた後、研究を志して大学院に入学した若手医師です。ちょうど研修医・後期修練医とスタッフ(医員、助教、講師、准教授、教授)の間に位置する世代であり、本事業ではこのような大学院生を活用します。
具体的には、臨床実習においてスタッフが学生を指導する(多くの場合年齢差10-20歳)際にそのサポートを行い(多くの場合年齢差10歳未満)、より学生に近い目線からの教育を可能にします。もちろん大学院生の本業は勉強・研究ですが、臨床研究室の研究は臨床と直結しているため、ある程度臨床指導に携わることは大学院生にとってもメリットがあります。本事業ではこのような活動を行う大学院生をティーチングアシスタントとして雇用することで給与を付与し、インセンティブを与えます。
Clinician Educator制度
本邦では諸外国と比較し、「臨床・研究・教育」の3本柱における「教育」の業績が十分評価されてきませんでした。その結果、大学病院にも「教育」を得意とする教員よりも「臨床・研究」を得意とする教員が集まりやすいという特徴がありました。本事業では上記のティーチングアシスタント制度と合わせ、若手医師に対する医療者教育FD(Faculty Development)を推進します。これはいわば「教えることを教える」「教え方を教える」といったもので、若手医師が将来「臨床・研究・教育」のどの分野に進んでも、後進を上手く導くことを可能とし、本邦全体の持続的な発展に寄与します。本事業で提供する一定のFDプログラムを修了した医師には「Kyoto-NEXT Clinician Educator」の認定を与え、また、その価値を共有していく枠組みを構築します。
屋根瓦式スチューデントアシスタント/オフィスアシスタント制度
学部生にとって最も身近な教育者は上級生(先輩)です。この重要な教育のルートは従来、所属する部活動やサークルによって限定され、ある種の不平等の原因ともなっていました。そこで本事業では公的に上級生をスチューデントアシスタント/オフィスアシスタントとして雇用し、下級生の指導に当たらせます。主にはシミュレータを用いた実技指導や共用試験前の模擬医療面接などを中心にこの制度を活用し、学び合いながら互いに成長するサイクルを作り出します。
子育て世代医療人支援の強化
子育てと仕事を両立する医療従事者をサポートするための施策も、本事業の重要な取り組みの一つです。京都大学医学部附属病院では、従来から育児等でフルタイム勤務が難しい医師に対して「キャリア支援診療医制度」として柔軟な働き方の支援を行ってきました。
出産や子育てのために医療職としてのキャリアを休止した人々の中には、優れたスキルを持つにも関わらずいきなりの復職に不安を抱えたり、フルタイムでの勤務が難しかったりする方がいます。本事業ではこのような方々と時間雇用の指導員として雇用することで、学生へのきめ細かな指導を可能にするとともに、指導員が復職していくためのリスキリングの期間としても活用します。Kyoto-NEXT事業は厚生労働省子育て世代の医療職支援事業「KUSNoKIプロジェクト」と連携しているため、このような取り組みに対して強みがあります。
子育てでの経験には教育に活かせる部分もあり、子育て世代ならではの教育貢献が期待できるものと考えています。